転職活動が順調に進むほど、複数社から内定が出る状況は珍しくありません。内定承諾書を提出した後に「やはり別の企業に入社したい」「家庭の事情で転職自体を見直したい」と感じるケースも実際に起こり得ます。
厚生労働省「令和6年 雇用動向調査」によれば、転職活動で複数内定を得た人の割合は年々増加傾向にあり、承諾後の辞退をめぐるトラブル相談も増えています。一方で、法律上は承諾書の提出後であっても労働者には辞退の自由が認められており、「提出したから撤回できない」わけではありません。
ただし、辞退のタイミングや伝え方を誤ると、企業との関係が悪化するだけでなく、業界内での評判にも影響しかねません。本記事では、データと文例を交えながら、内定承諾書の辞退を円満に進める方法を解説します。
この記事でわかること
- 内定承諾書を提出後に辞退できる法的根拠
- 企業側の辞退対応に関するデータ分析
- 電話・メールそれぞれの辞退文例とマナー
- 辞退時に起こりやすいトラブルと回避策
- 辞退連絡のベストタイミングと判断基準
内定承諾書の提出後に辞退は法的に認められるのか
民法の規定と判例の傾向
内定承諾書は法的には「始期付解約権留保付労働契約」の一部と解釈されるのが通説です。民法第627条1項では、期間の定めのない雇用契約はいつでも解約の申し入れが可能と規定されています。つまり、承諾書を提出していたとしても、入社日の2週間前までに意思表示すれば原則として辞退が認められます。
損害賠償リスクは実際どの程度あるか
「辞退したら損害賠償を請求されるのでは」と不安を抱く方は少なくないでしょう。しかし、JILPT(労働政策研究・研修機構)の過去の判例分析によれば、内定辞退を理由に損害賠償が認められたケースは極めて限定的です。企業側が実損を立証すること自体が難しく、実務上は請求に至るケースはほとんどありません。ただし、入社日の直前に辞退する場合や、研修費用を企業が先に負担していた場合はリスクが高まるため注意が必要です。
データで見る内定承諾後の辞退実態
辞退率と辞退理由の内訳
マイナビキャリアリサーチLabの「2025年 中途採用実態調査」によると、内定承諾後に辞退された経験がある企業は全体の約38%にのぼります。辞退理由の上位は以下の通りです。
| 辞退理由 | 割合(複数回答) |
|---|---|
| 他社の条件がより良かった | 42.1% |
| 現職に残る決断をした | 25.7% |
| 労働条件が説明と異なった | 14.3% |
| 家庭・健康上の事情 | 10.8% |
| その他 | 7.1% |
「他社比較」が最多である点は、複数応募が当たり前の転職市場の現状を反映しています。労働条件の食い違いについては、内定後に確認すべき労働条件チェックリストで詳しく解説しているので、事前確認の参考にしてください。
企業側の受け止め方
同調査では、承諾後の辞退に対して「やむを得ないと思う」と回答した企業が56%、「非常に困る」が31%、「二度と採用しない」が13%でした。過半数の企業が理解を示す一方で、伝え方やタイミングによっては今後の関係に影響する点を覚えておきたいところです。
辞退連絡のタイミングと判断基準
最適な連絡タイミングはいつか
辞退を決めたら、できるだけ早く連絡するのが鉄則です。企業は内定承諾後に入社準備(PC手配・研修日程の調整・既存社員への周知など)を進めているため、遅くなるほど相手の負担は大きくなります。目安として、承諾から1週間以内であれば企業側の準備が本格化する前に間に合うケースが多いとされています。
「辞退すべきか迷う」ときの判断フレームワーク
迷いがある場合は、以下の3軸で整理すると判断しやすくなります。
1. キャリアの方向性:5年後の自分にとってどちらが合致するか
2. 労働条件:年収・勤務地・働き方で譲れない条件を満たしているか
3. 組織風土:面接時の印象や口コミ情報を再点検する
年収面の比較については、転職の年収交渉で失敗しないテクニックの記事も参考になります。
電話・メール別|内定承諾後の辞退文例
電話での辞退:基本構成と例文
辞退連絡はまず電話で行うのがマナーとされています。メールだけで済ませると、企業側に誠意が伝わりにくいためです。
電話の基本構成
1. 名乗り+担当者への取次ぎ依頼
2. 内定承諾後の辞退であることを端的に伝える
3. 辞退理由を簡潔に説明する
4. お詫びと感謝の言葉で締める
電話トーク例
> 「お忙しいところ恐れ入ります。先日内定をいただきました○○と申します。大変恐縮ではございますが、慎重に検討した結果、今回の内定を辞退させていただきたくご連絡いたしました。貴社の選考に時間を割いていただいたにもかかわらず、このようなご連絡になり誠に申し訳ございません。」
メールでの辞退:テンプレートと注意点
電話の後にフォローとしてメールを送ると、記録にも残り丁寧な印象を与えられます。なお、メールのみで辞退連絡を完結させたい場合の書き方については、転職の内定辞退メール|例文と書き方・マナーを完全解説を併せてご確認ください。
メール件名例:内定辞退のご連絡(氏名)
メール本文の要素
- 宛名(会社名・部署名・担当者名)
- 内定への感謝
- 辞退の意思と簡潔な理由
- お詫びの言葉
- 署名
辞退理由は詳細に書く必要はなく、「他社への入社を決めた」「家庭の事情」など一言で十分です。企業名を聞かれた場合も、答える義務はありません。
体験談|承諾後辞退を経験したAさんの場合
30代前半で異業種転職を目指していたAさん(メーカー勤務)は、第一志望のIT企業の選考が遅れたため、先に内定が出たコンサル企業の承諾書を提出しました。その4日後に第一志望から内定が出たため、コンサル企業に電話で辞退を伝えたそうです。
「正直、電話をかけるまでは胃が痛くなるほど緊張しました。しかし、採用担当の方は『残念ですがご事情は理解できます。早くお知らせいただきありがとうございます』と言ってくださり、想像していたよりスムーズでした。迷った時間が長引くほど相手の負担も増えるので、決断したらすぐ動くのが大事だと実感しています。」
Aさんのケースのように、早めの連絡と誠実な態度があれば、円満に辞退できる可能性は高いといえるでしょう。
辞退時のトラブル事例と回避策
トラブル1:強引な引き留めを受けた場合
企業によっては「もう一度話し合いたい」「条件を上げるので再考してほしい」と引き留められることがあります。意思が固い場合は、「大変ありがたいお話ですが、熟考の結果決めたことですのでご了承ください」と丁寧かつ毅然と伝えましょう。
トラブル2:転職エージェント経由で辞退する場合
エージェントを利用している場合は、まずエージェントの担当者に辞退の意向を伝え、企業への連絡を代行してもらうのが一般的です。エージェントは辞退対応にも慣れているため、自分ひとりで対処するよりスムーズに進むケースが多いでしょう。50代の転職で複数内定が出た際の対応については、転職エージェント50代おすすめ7選でも触れています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 内定承諾書に「辞退した場合は損害賠償を請求する」と書かれていましたが、有効ですか?
一般的に、そのような条項があっても法的拘束力は極めて低いと解釈されています。労働者の職業選択の自由は憲法で保障されており、承諾書の記載だけで損害賠償が認められた判例はほとんどありません。ただし不安が残る場合は、労働基準監督署や弁護士に相談することをおすすめします。
Q2. 入社日の1週間前に辞退しても問題ありませんか?
法律上は入社日の2週間前までに意思表示すれば可能ですが、1週間前となると企業の準備が大幅に進んでいるため、トラブルに発展するリスクが高まります。できる限り早い段階で辞退の意思を伝えるのが望ましいでしょう。
Q3. 辞退理由を正直に伝えるべきですか?
詳細な理由を開示する義務はありません。「他社への入社を決断した」「家庭の事情」など、簡潔な表現で問題ないケースがほとんどです。嘘をつく必要はありませんが、相手企業を傷つける表現は避けるのがマナーといえます。
まとめ
内定承諾書を提出した後でも、法律上は辞退が可能です。ただし、企業への影響を最小限に抑えるために「できるだけ早く」「まず電話で」「誠意をもって」伝えることが重要になります。データが示す通り、過半数の企業は辞退に対して一定の理解を示してくれるため、過度に怖がる必要はありません。
一方で、承諾書を軽い気持ちで提出するのは避けたいところです。内定後の条件確認を徹底し、納得した上で承諾することが、結果としてトラブルを防ぐ最善策となります。これから転職活動を進める方は、判断材料を十分に集めてから承諾書に署名するよう心がけてください。

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